仏教質問箱布教誌『宝塔』に連載中の「仏教質問箱」より
葬儀と告別式は、どう違うのでしょうか?
亀山本久寺住職 宗務主事 松吉慶憲
現在、一般的なお葬式に参りますと、「○○家葬儀・告別式」と書いてあったり、開式のアナウンスで、「葬儀ならびに告別式」と言ったりしますが、本来は別々のものなのです。
辞書を引いてみると、「葬儀」は、お葬式のことで、死者を葬(ほう)むり、弔う儀式です。一方、「告別式」は、故人の霊に対し、縁故知人が、別れを告げる儀式とあります。
これでは、二つの違いは、少し分かりにくいですね。言い換えますと、「葬儀」の方は宗教的な儀式、「告別式」の方は世俗的な儀式ということになります。
葬儀は、古代宗教のあったころからのものですが、告別式の歴史は以外と浅く、明治時代に始まったものなのです。
『「お葬式」の日本史』(新谷尚紀著)という本によって見ていきましょう。明治時代の思想家で、中江兆民という人がいます。土佐(高知県)の出身で、自由民権運動の旗手として、自由党の創設にも携わりました。第一回衆議院選挙に当選もしています。また、岩倉遣欧使節団の一員としてフランスにも行った彼は、啓蒙思想家ルソーの『民約論』を翻訳し、無神論や唯物論についての書も著しています。
彼は、明治三十四年(一九〇一)十二月十三日に病没しますが、「自分は宗教を信じないから葬式は不要。ただちに荼毘に付すこと」と遺言していました。葬式は不要と言われて困った遺族が、知己である板垣退助らに相談したところ、宗教色を排した儀式にしようということになりました。
その儀式は、新聞広告で「宗教的儀式を用いず、告別式を執行する」と告知されました。
十七日に東京の青山墓地で行われた告別式は、参列者は千人を超え、板垣が弔辞を読み、他に知人らが、追悼演説や永別式次を述べました。すなわち、これが告別式のはじまりだったのです。
以上、見てきましたように、告別式は無宗教な儀式として始まったものですから、今日のお葬式の中で、弔辞や弔電の披露、遺族の挨拶などの部分が「告別式」に当たり、仏式では、僧侶の読経や引導の部分が「葬儀」なのです。
ですから、僧侶に依頼するのは「告別式」なのではなく、「お葬式」なのです。