仏教質問箱布教誌『宝塔』に連載中の「仏教質問箱」より
鬼子母神さまについておしえてください。
田中豊隆
鬼子母神は法華経の行者擁護の善神であります。それは法華経陀羅尼品の説相に由来します。即ち、仏さまにむかって、「法華経を信じ行ずるものを護り、彼を悩ませんとする魔の障害を除きましょう」と誓って呪文を説き、「もしこの呪文に随わず法華の行者を悩まし修行を妨げんとするならば、彼の頭は阿梨樹の枝の如く砕けてしまうであろう」と誓願をたてました。そこで仏さまはこれをゆるされ、「善哉善哉、汝等はまさに法華を持つ修行者を護り、その行をたすけよ」といわれました。このことから行者擁護の善神といいます。
この鬼子母神は「三千世界の人の寿命をうばう悪鬼たる鬼子母神」と『日女御前御返事』説かれています。もとは悪鬼で訶利底、柯梨帝、或は訶利帝母という言葉の意訳で、大薬叉女神の名、歓喜母愛子母、天母などと呼ばれています。鬼子母神と仏の説話は仏説鬼子母経、大薬叉女歓喜母並愛子成就法、毘奈耶雑事、雑宝蔵経など二十数種の諸経に説かれています。一般によく知られる毘奈耶雑事によれば、鬼子母神は摩竭陀国王舎城の山中に住む娑多薬叉神の子で、健陀羅国の半支迦の妻、五百人の子の母であり、生来悪心で遂に人の子を取って食うまでの悪行をくりかえしていました。
人々はこれを憂えおそれ、仏さまに救いを求めました。仏さまは人々の気持を憐れんで、鬼子母神の末子嬪伽羅をお隠しになりました。一心不乱で愛子をさがしましたが見つけることができず、ついに仏さまのもとに参り行方を尋ねました。仏さまは五百人の子がありながら、ただ一子を失って、それほどまで悲しむのに、一子、二・三子の子を取られた親の悲痛は如何ばかりか解るであろうと教えました。その非を悟った鬼子母神は、仏の命に従い三帰(南無仏、南無法、南無僧)、五戒(不殺生、不偸盗、不邪婬、不妄語、不飲酒)を受け、生涯人の命を奪わないことを誓い仏法を護持したと説かれています。
一般には子安、安産、子育ての守護神であるように思われるのは、鬼子母神が五百人の子を持ち、人々の子を守護するという誓願をたてたと伝え説かれたことによるものと思われます。