日蓮大聖人のおことば 布教誌『宝塔』に連載中の「日蓮大聖人聖訓カレンダー解説」より解説者の役職・所属寺院名などは掲載当時のもの
人に物をほどこせば 我が身のたすけとなる
出展:食物三徳御書(昭定一六〇七)
解説:学林教授・岡崎 長福寺住職 牧野真海
人に物を施すとは、他人に無償で食糧や衣類、金銭を与える行為です。
近年世界各地で天災地変が連続して勃発し、多くの犠牲者が出てしまいました。そうした場合、国家は緊急援助として災害救助隊の派遣、生活・医療物資や復興支援金の送付を行います。ことわざに、「困ったときはお互いさま」というものがあります。
我が国でも近年の記憶深く刻まれている災害に「阪神淡路大震災」がありました。一九九五年一月十七日の早暁、突如として近畿地方を襲った地震は数千名の生命を奪い、さいらに多くの被災者の方々に癒えることのない苦しみを与え続けています。
しかし、絶望的な状況の中で、民間からいち早く救援ボランティアに起ちあがったのは、「自己チュー」などと揶揄(やゆ)されていた当時の十代、二十代の若者たちであったことは、皆さまご存じでしょうか?
彼らは自然発生的に被災地に集まり、小さな衝突を経ながらも、右往左往する行政を尻目に、災害救助の一翼を担いました。報酬なしの手弁当です。
仏道修行のひとつに「布施行」があります。見返りを求めず、他者に物品をほどこしたり手助けをすることをいいますが、あの震災のボランティアはまさにその実践だったといえるでしょう。
「情けは人のためならず」ということわざのとおり、布施の実践は、めぐりめぐってやがて自分の人生に良き縁をもたらすのです。